ギャンブル依存症

カジノを合法化する統合型リゾート施設(IR)整備推進法案の論議に絡んで「ギャンブル依存症」が注目されている。カジノ解禁による患者増加の懸念が拭えないためだ。ギャンブル依存症の危険性とは何か。最新の治療に取り組む専門医は「依存症になっても多くは自然回復する。問題は深刻な葛藤などの重症化因子を抱え、自己破産や自殺にまで進んでしまう人が全体の1~2割いることだ」と指摘する。

国立病院機構久里浜医療センター(横須賀市)に昨年6月に開設された50代の女性Aさんが受診した。
30年前に離婚したAさん。20年ほど前から気晴らし目的でパチンコを始めた。ところが13年前に母親を亡くしてから頻度と投資額が急増し、約300万の借金を背負って自己破産。4年前に自殺を図り、その後は情緒不安定の状態が続いていた。「DSM-5」と呼ばれる診断基準に照らして、重度のギャンブリング障害(ギャンブル依存症)と診断された。

ギャンブル依存症は、賭け事に対する衝動が抑えられず、やめたくてもやめられなくなる精神障害だ。家庭や仕事といった自分が大事にしていたものより賭け事を優先するようになり、人間関係の破綻や多額の借金などの問題を抱く。

厚生労働省研究班(代表=樋口進・同センター院長)の推計では。ギャンブル依存の疑いがある人は国内に536万人。成人の4.8%に上る。
「諸外国の1~2%と比べ日本は多い。町中にパチンコ店があふれ、気軽にギャンブルできることが背景にあります」と病的ギャンブリング外来で責任者を務める河本泰信・精神科医長。実際、同センターでは、原因となった賭け事の9割をパチンコやスロットが占めている。

河本さんによると、多くの場合、依存症は一時的なもので、治療しなくても2~3年で自然に回復する。その割合が9割近くに達するという海外の報告もある。しかし一方で、Aさんのように破産や自殺といった破壊的な状況に陥る人が1~2割存在する。
「破滅に向かう人は、心の奥底に強い羞恥心や孤独感、無力感といった葛藤を抱えているケースが多い。何をしても心が満たされず、自然には回復できない。そういう重症化因子のある人たちを見分けて治療に結びつけるのが私の使命です。」と河本さんは話す。

ギャンブル依存症のメカニズムは未解明で、薬物治療は確率していない。このため治療は、認知行動療法などの心理療法が中心となる。従来、治療はギャンブルを完全に断つことが目標とされてきた。だが、久里浜医療センターでは、どんな欲求がギャンブルに向かわせたのかを特定し、その欲求を充足できる新たな活動を見つけることを治療目標に掲げている。

Aさんの場合は、母の死に対する自責の念が重症化要因であることが判明し、最初にカウンセリングでこれを軽減。その上で認知行動療法など計6回の治療を施した。Aさんは今、カラオケで気晴らしをして、パチンコさえも自分をコントロールして適正に楽しめる前に回復した。

河本さんは「カジノ解禁で依存症がどの程度増えるかのかはわからない」としながら「解禁するにせよ、しないにせよ、ギャンブル依存症の相談や治療に適切に対応できる環境の整備が急務です。重症化因子のある人は今も50~100万人いるはず。専門外来をもつ医療機関が全国に十数か所という現状ではとても間に合わない」と訴えている。